空想の夜の航跡

日々の暮らしの中で調べたこと、感じたこと、読んだ本の感想など

モノを通してみる世界(感想)

『砂糖の世界史』

 川北稔著 岩波ジュニア新書   ★★★★★

 

f:id:cheyryech:20190602090649j:plain

歴史は奥深い。

歴史上の物事を別の角度から見てみると、世界が違うように見えてくる。

そんな楽しみを与えてくれる本である。

砂糖をめぐり、当時の世界のつながりや人々の暮らしが生き生きと描かれ、手に取るようなリアリティが感じられ、それが本書の魅力になっている。

歴史好きをさらに歴史好きにする本、ではないだろうか。

 

歴史の断片が一つにつながる

舞台の一つは17~18世紀のカリブ海。労働力としてのアフリカ奴隷を猛烈な勢いで導入し、ひたすら砂糖だけを作り続けるさまが描かれる。現地の食糧さえ北アメリカから輸入し砂糖づくりに専念したという。極端すぎる話である。

この極端さがカリブ海世界に計り知れない影響を及ぼし、それが現代まで続いていく。

カリブ海世界のことは今までほとんど何も知らなかったので、新鮮で興味深かった。

ここからアメリカ大陸の黒人史へ踏み入っていくのも面白いかもしれない。

 

ところで本書では歴史の授業で習った用語が多く出てくる。

大航海時代」「植民地」「プランテーション」「奴隷貿易」「三角貿易」「産業革命」等々・・・

本書の特徴はそれらの相互のつながりがいきいきと描かれることである。著者が世界を一つのシステムのように描いていることがとても印象深かった。

お互いなんの関係もないような世界各地の人々が実は深くかかわりあっているのだ。

 

f:id:cheyryech:20190602090724j:plain

当時の暮らしも見えてくる

もう一つの舞台はヨーロッパである。

当時のヨーロッパでは砂糖は最初は「薬品」であり「デコレーション(飾り物)」であったらしい。

当時の社会では砂糖は王侯貴族のものであり庶民の手の届くものではなかった。

その後砂糖をお茶(紅茶)に入れるという習慣が生まれ、やがて庶民の必需品になっていく過程が興味深かった。

砂糖だけでなくお茶、コーヒー、チョコレートなどの歴史も合わせて説明され、ヨーロッパの当時の生活を想像させてくれるのも面白い。

歴史上の大きな事件とは別の切り口から、当時の世界を垣間見た気がした。

 

 

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

 

 

歴史を学ぶ意味

著者が「あとがき」で述べている。

歴史を学ぶということは、いま私たちの生きているこの世界が、どのようにしてこんにちのような姿になってきたのかを身近なところから考えてみることなのです。

本書に描かれたカリブ海世界の成り立ちは南北格差の問題につながるし、砂糖だけを生産してきたために他の産業の進展が遅れたカリブ海諸国は現在苦境に立っている。

著者の言う通り、今の世界がどうしてこうなっているのか、歴史を学ぶことでわかることは多い。

 

だから歴史は面白い。