空想の夜の航跡

日々の暮らしの中で調べたこと、感じたこと、読んだ本の感想など

「会社員」という働き方でいいの?(感想)

『ナリワイをつくる』

 伊藤洋志 東京書籍 ★★★★☆

 

大正時代、職業は約3万5000職種もあったというが、現在は2167職種だそうだ。

この数字は一体何を物語るのだろうか。

 

本書のテーマは「『会社員』という働き方」の見直しとも言える。

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ナリワイという働き方

会社に所属してある仕事を専門的に行うのではなく、生活を充実させるような、規模の小さい仕事をいくつかもつ。本書ではそんな働き方を提示し「ナリワイ(生業)」と呼んでいる。例えて言えば、月の収入が3万円ほどをビジネスを10個ほどもつ、ということだ。

 

会社員やるより10個ものビジネスを持つ方がよほどしんどい気がする。

だが本書も指摘しているように、会社員という「専業」の働き方は高度経済成長期にたまたま出現したものであり、むしろ特殊である、と言われると考え込んでしまう。

現代はもちろん高度経済成長期ではないし、働き方改革のもと労働時間が短縮する一方、副業解禁への動きもある。本書の考え方と現実の方向性はリンクしているようだ。

 

著者が提唱するナリワイの要素とは以下のようなものである。

  • やると自分の生活が充実する。
  • お客さんをサービスに依存させない。
  • 自力で考え、生活をつくれる人を増やす。
  • 個人で始められる。
  • 家賃などの固定費に追われない方がよい。
  • 提供する人、される人が仲良くなれる。
  • 専業じゃないことで、専業より本質的なことができる。
  • 実感が持てる。
  • 頑張って売り上げを増やさない。
 

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”ライスワーク”は危険?

本書を読んで、じゃあ明日から自分もナリワイを始める、というのは難しい。ナリワイを始める前に、これまでに染みついた考え方を改める必要があるだろうからだ。
例えば高度な専門技術が必要と思われていることが、実は少し時間をかければ習得できるものがあるということ。著者が家の床張りを自力で習得したのが実例である。つまり世の中の仕事について思い込みや常識ではなく自分の目で状況や構造を見るということだ。
 
また当面の生活分は今の仕事で稼いで、理想の仕事はライフワークとして別に行う、という方法は、生活費を稼ぐ意識が染みついて理想の仕事への感覚も鈍らせる危険性があるという。今の仕事への取組み方をおろそかにしていいわけではないのだ。ちなみに生活のためだけにする仕事を”ライフワーク”ならぬ”ライスワーク”というらしい。
 
他にも、目先の「頑張る」努力というのは一つの思考停止であり、毎日全力投球では物事を俯瞰して考える力が残らないという。
こういった考え方はいままで見聞きしたことはなかったが、改めて納得する部分も多かった。なにより本書が提示する働くことに対する考えは無理がなく自然に思えた。
 
もちろん本書にはナリワイの作り方や進め方についても書かれているが、そもそもナリワイという考えに至るまでの部分に示唆が多いように感じた。
 

 

ナリワイをつくる: 人生を盗まれない働き方 (ちくま文庫)

ナリワイをつくる: 人生を盗まれない働き方 (ちくま文庫)

 

 

 

現代社会は消費する場

現代社会は人により多く消費させようとする。

気が付かないうちに支出が増えている。

家中に買ったモノがあふれ手放す勇気がなかなか出にくい。

このような消費の仕方に対し「私たちが持っている物は、所有物ではなくただ一時的に預かっているだけ」という見方を著者は提案する。

このような考えで生活できれば暮らし方の選択肢は広がると思うが、消費することに慣れ切った都会人には結構な道のりがあるだろう。

 

それでも、ナリワイ的働き方は静かに社会に広がっていくかもしれない。

 

 

ロマノフ朝ロシアを知る楽しい”絵本”(感想)

『名画で読み解く ロマノフ家12の物語』

 中野京子 光文社新書 ★★★★☆

 

ロシアは謎めいた国である。

現代のロシア情勢もよくわからないのだが、歴史となるとさらにイメージしにくい。

 

謎めいているがゆえに魅かれるのである。

 

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名画を眺めるだけでも面白い

ロシア最後の王朝、ロマノフ朝

始祖ミハイルから最後のニコライ2世まで300年にもわたるらしい。

その歴史を、興味深い名画の数々を題材にしてたどっていく。つまり”絵本”である。

絵画そのものを眺めているだけでも楽しいが、ロマノフ家の個性的な登場人物たちの物語が絵画によってより印象深くなるしかけにもなっている。

 

紹介される作品はどちらかというと凄惨というか、闇を感じるようなものが多い。

中でも以下の作品はぜひ一度本物を鑑賞してみたいと思った。素人が見てもただならない雰囲気を放っているのだ。

  • 『皇女ソフィア』イリヤ・レーピン画 p48
  • 『ピョートルと息子』ニコライ・ゲー画 p.56
  • 『皇女タラカーノヴァ』コンスタンチン・フラヴィツキー画 p88
 

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幽閉・裏切り・陰謀・暗殺・・・

ロマノフ朝の歴史に目を向けるとこれもまた闇深い。王侯貴族たちの激烈な権力闘争が際限なく続き、陰謀・裏切り・復讐が繰り返されていく。

 
本書でもいくつかが紹介されているが、処刑や暗殺されたはずなのに「実はまだ生きている」貴人の伝説が多くあるらしい。いろいろな謀略が闇の中で行われてきたからこそだろう。
 
300年もの間、ロマノフ朝は大きく揺れ動きながらも東へ領土を拡大し続けた。
しかし王朝の最後は皇帝一家全員が一斉射撃で銃殺されるという悲惨なものだった。
 

豆知識も

ところでこの本は王朝の権力闘争だけでなく、ちょっとした雑知識も教えてくれるのがうれしい。
例えば「ヴォルガの舟曳き」(イリヤ・レーピン画)という絵。
ヴォルガ河の舟を引く姿は一目で最底辺の労働者たちとわかるが、そもそも彼らは何のために舟を引いているのだろうか。
動力のない船を川で運行する際に、上流から下流は流れに乗って、下流から上流へは人馬の力で舟を運航させていたのだ。
作品の遠景に蒸気船の姿も描かれているのだが、人手を使う方が安上がりだったのである。
そんな背景を知ったうえで舟曳きの労働者たちの姿を改めて見直すと、その虐げられた姿がより印象的であった。

 

なかなか贅沢な、楽しめる本だ。

それにしてもロシアは今も昔も謎めいている。

 

 

はたらくってなんだ?(感想)

『僕たちはいつまでこんな働き方をつづけるのか』

 木暮太一 星海社新書     ★★★★☆

 

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今まで、働くためのノウハウやスキルに関する本はそれなりに読んできた。

しかし、「働くこと」自体についてはあまり考えたことはなかったような気がする。

本書は、後者の疑問に関して回答のひとつになりうる本である。

 

資本論」と「金持ち父さん貧乏父さん」

まずこの有名な2冊の本から話が始まっている。

一方はマルクスが資本主義の限界を論じた古典であり、他方は不労所得(投資)を薦めたベストセラー。全く分野の違う2冊である。

しかし著者はこの2冊が実は本質的に同じことを言っていることに気づき、そこから資本主義社会の中で労働者としてどのような働き方をするべきかを説いていく。なかなか興味をそそられる展開である。

 

ところで、この本の特徴は全体構成がしっかりしておりデザインも工夫されていて、非常に読みやすいことである。

本書で最終的に伝えたいことは比較的簡明なものだが、そこに至る道筋を順を追ってとても丁寧に明らかにしている。話が飛ぶ部分がなく全体の流れがわかりやすいのだ。

内容もさることながら、構成がわかりやすい!、と妙なところに感心しながら読んだ。

 

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仕事における「満足感」と「必要経費」

この本は自分がこれからの働き方について考えていてたまたま見つけたのだが、それまでも漠然と、「働き方って、仕事の「満足度」(給料や地位)と、それに必要な「コスト」(労力や時間、精神的消耗)とのバランスだよなー」などと考えていた。

本書ではその「満足感」と「必要経費」の差分(それを「自己内利益」と定義している)に注目し、それをプラスにする働き方を目指す。つまり、

  1. 満足感を変えずに必要経費を下げる
  2. 必要経費を変えずに満足感を上げる
ということである。
もともと自分が考えていたことと近かったからかもしれないが、本書の帰結は納得できたし、より具体的に働き方を考えていく上で役立つ内容であった。
 
なお、本書は現在絶版のようだが、
『人生格差はこれで決まる 働き方の損益分岐点

と改題され文庫版として出版されている。 

 

僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか? (星海社新書)

僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか? (星海社新書)

 

 

これからの働き方

本書では「必要経費」の中でも「精神的苦痛」を小さくすることが重要であるという。

そのためには本書にもあるように精神的苦痛の小さい仕事を選ぶのも一つだが、ではすでに働いている人が今の仕事を続ける場合はどうすればよいのだろうか。

 

結局、その人の「仕事観」が大きく影響していると個人的には思う。

世の中には仕事をゲームのように見る人もいる一方、どんな仕事もいい加減にできない生真面目な人もいる。両者の「仕事観」(仕事へのスタンス)はまるで違うだろう。

前者のようなスタンスであれば、仕事による精神的苦痛は小さいように思える。

 

仕事へのスタンスというものは通常あまり変えようとは考えないのかもしれないが、精神的苦痛が最も小さくなるようそれを意識的に変えていくことはできないものだろうか。

 

この本をヒントにしながら、働き方については更に考えてみたい。

 

改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん:アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学 (単行本)

改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん:アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学 (単行本)

 

 

 

超入門 資本論 (日経ビジネス人文庫)

超入門 資本論 (日経ビジネス人文庫)

 

 

モノを通してみる世界(感想)

『砂糖の世界史』

 川北稔著 岩波ジュニア新書   ★★★★★

 

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歴史は奥深い。

歴史上の物事を別の角度から見てみると、世界が違うように見えてくる。

そんな楽しみを与えてくれる本である。

砂糖をめぐり、当時の世界のつながりや人々の暮らしが生き生きと描かれ、手に取るようなリアリティが感じられ、それが本書の魅力になっている。

歴史好きをさらに歴史好きにする本、ではないだろうか。

 

歴史の断片が一つにつながる

舞台の一つは17~18世紀のカリブ海。労働力としてのアフリカ奴隷を猛烈な勢いで導入し、ひたすら砂糖だけを作り続けるさまが描かれる。現地の食糧さえ北アメリカから輸入し砂糖づくりに専念したという。極端すぎる話である。

この極端さがカリブ海世界に計り知れない影響を及ぼし、それが現代まで続いていく。

カリブ海世界のことは今までほとんど何も知らなかったので、新鮮で興味深かった。

ここからアメリカ大陸の黒人史へ踏み入っていくのも面白いかもしれない。

 

ところで本書では歴史の授業で習った用語が多く出てくる。

大航海時代」「植民地」「プランテーション」「奴隷貿易」「三角貿易」「産業革命」等々・・・

本書の特徴はそれらの相互のつながりがいきいきと描かれることである。著者が世界を一つのシステムのように描いていることがとても印象深かった。

お互いなんの関係もないような世界各地の人々が実は深くかかわりあっているのだ。

 

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当時の暮らしも見えてくる

もう一つの舞台はヨーロッパである。

当時のヨーロッパでは砂糖は最初は「薬品」であり「デコレーション(飾り物)」であったらしい。

当時の社会では砂糖は王侯貴族のものであり庶民の手の届くものではなかった。

その後砂糖をお茶(紅茶)に入れるという習慣が生まれ、やがて庶民の必需品になっていく過程が興味深かった。

砂糖だけでなくお茶、コーヒー、チョコレートなどの歴史も合わせて説明され、ヨーロッパの当時の生活を想像させてくれるのも面白い。

歴史上の大きな事件とは別の切り口から、当時の世界を垣間見た気がした。

 

 

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)

 

 

歴史を学ぶ意味

著者が「あとがき」で述べている。

歴史を学ぶということは、いま私たちの生きているこの世界が、どのようにしてこんにちのような姿になってきたのかを身近なところから考えてみることなのです。

本書に描かれたカリブ海世界の成り立ちは南北格差の問題につながるし、砂糖だけを生産してきたために他の産業の進展が遅れたカリブ海諸国は現在苦境に立っている。

著者の言う通り、今の世界がどうしてこうなっているのか、歴史を学ぶことでわかることは多い。

 

だから歴史は面白い。

 

ブログを書きます。

とりあえず始めてみます。

これから何を書くか、自分でもわかりません。

異邦人が異国の姿を眺めるように、少しずつ見聞を広め

気持ちの赴くままにその時々の思いを表現したいと思います。

 

何から書こうかな。。。

ではまた。

 

風雲児たち 1巻 (SPコミックス)