空想の夜の航跡

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ロマノフ朝ロシアを知る楽しい”絵本”(感想)

『名画で読み解く ロマノフ家12の物語』

 中野京子 光文社新書 ★★★★☆

 

ロシアは謎めいた国である。

現代のロシア情勢もよくわからないのだが、歴史となるとさらにイメージしにくい。

 

謎めいているがゆえに魅かれるのである。

 

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名画を眺めるだけでも面白い

ロシア最後の王朝、ロマノフ朝

始祖ミハイルから最後のニコライ2世まで300年にもわたるらしい。

その歴史を、興味深い名画の数々を題材にしてたどっていく。つまり”絵本”である。

絵画そのものを眺めているだけでも楽しいが、ロマノフ家の個性的な登場人物たちの物語が絵画によってより印象深くなるしかけにもなっている。

 

紹介される作品はどちらかというと凄惨というか、闇を感じるようなものが多い。

中でも以下の作品はぜひ一度本物を鑑賞してみたいと思った。素人が見てもただならない雰囲気を放っているのだ。

  • 『皇女ソフィア』イリヤ・レーピン画 p48
  • 『ピョートルと息子』ニコライ・ゲー画 p.56
  • 『皇女タラカーノヴァ』コンスタンチン・フラヴィツキー画 p88
 

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幽閉・裏切り・陰謀・暗殺・・・

ロマノフ朝の歴史に目を向けるとこれもまた闇深い。王侯貴族たちの激烈な権力闘争が際限なく続き、陰謀・裏切り・復讐が繰り返されていく。

 
本書でもいくつかが紹介されているが、処刑や暗殺されたはずなのに「実はまだ生きている」貴人の伝説が多くあるらしい。いろいろな謀略が闇の中で行われてきたからこそだろう。
 
300年もの間、ロマノフ朝は大きく揺れ動きながらも東へ領土を拡大し続けた。
しかし王朝の最後は皇帝一家全員が一斉射撃で銃殺されるという悲惨なものだった。
 

豆知識も

ところでこの本は王朝の権力闘争だけでなく、ちょっとした雑知識も教えてくれるのがうれしい。
例えば「ヴォルガの舟曳き」(イリヤ・レーピン画)という絵。
ヴォルガ河の舟を引く姿は一目で最底辺の労働者たちとわかるが、そもそも彼らは何のために舟を引いているのだろうか。
動力のない船を川で運行する際に、上流から下流は流れに乗って、下流から上流へは人馬の力で舟を運航させていたのだ。
作品の遠景に蒸気船の姿も描かれているのだが、人手を使う方が安上がりだったのである。
そんな背景を知ったうえで舟曳きの労働者たちの姿を改めて見直すと、その虐げられた姿がより印象的であった。

 

なかなか贅沢な、楽しめる本だ。

それにしてもロシアは今も昔も謎めいている。